VOL.02 / 2026.05 — COLUMN
月刊AI Vol.02 — 2026.05
Column / 082

プロンプトの作法 第2回
具体例の力

Few-Shot Promptingは、AIに長い説明をする代わりに「こういう入力なら、こう返してほしい」という例を見せる方法だ。AI初心者にとっては、最も実務に効きやすく、最も誤解されやすい技術でもある。

WRITTEN BY 月刊AI 編集部PromptingFew-ShotPractice読了時間 約9分

AIへの指示がうまくいかないとき、多くの人は説明を長くする。しかし実務では、説明を増やすよりも、良い例を2つか3つ見せた方が出力が安定することがある。Few-Shot Promptingとは、AIに「言葉で命令する」のではなく、「見本で教える」プロンプト技術である。

人間の新人教育に似ている。「丁寧なメールを書いて」と言うだけでは、人によって丁寧さの基準が違う。ところが、良いメール例を3通見せてから「この調子で書いて」と頼むと、文体、長さ、言い回しが揃いやすい。AIも同じように、具体例から形式や判断基準を読み取る。

Evidence Note

OpenAIのPrompt Engineeringガイドは、Few-shot learningを「少数の入力と望ましい出力例をプロンプト内に含めることで、新しいタスクへモデルを誘導する方法」と説明している。Anthropicの公式ガイドも、例は出力形式・トーン・構造を安定させる信頼性の高い方法だとしている。

01

Few-Shot Promptingとは何か

Few-Shotの「Few」は少数、「Shot」は例のことだ。つまりFew-Shot Promptingは、AIにいくつかの例を見せてから、本番の依頼をする方法である。例をまったく見せない指示はZero-Shot、1つだけ見せる場合はOne-Shotと呼ばれることもある。

AI初心者は、まず「例は説明より強い」と覚えるとよい。特に、文章のトーン、分類ルール、表の形式、メール返信、議事録のまとめ方、商品説明文の型などは、言葉で細かく説明するより、完成例を見せた方が伝わりやすい。

Beginner Point

Few-Shotは難しい技術ではありません。AIに「この例と同じ感じでやって」と伝える方法です。料理で言えば、レシピを長く説明するより、完成写真を見せるイメージです。

02

悪い例と良い例

たとえば、問い合わせメールへの返信をAIに書かせたいとする。単に「丁寧に返信して」と頼むと、長すぎたり、堅すぎたり、勝手に約束をしてしまうことがある。そこで、会社が望む返信の型を例として見せる。

Bad Prompt説明だけ
お客様からの問い合わせに、丁寧で分かりやすい返信を書いてください。
Few-Shot Prompt例で教える
あなたの役割
中小企業の営業事務として、お客様に短く丁寧な返信を書きます。

例1
入力: 納期を知りたいです。
出力: お問い合わせありがとうございます。現在の標準納期はご注文後5営業日です。数量や在庫状況により前後する場合があるため、品番と数量をお知らせいただければ確認いたします。

例2
入力: 見積書を送ってください。
出力: ご依頼ありがとうございます。お見積り作成のため、商品名、数量、納品先の都道府県をお知らせください。確認でき次第、担当者より見積書をお送りします。

本番
入力: 送料はいくらですか。

このように例を入れると、AIは「短め」「断定しすぎない」「必要情報を確認する」「担当者確認を残す」といった暗黙のルールを読み取りやすくなる。プロンプトは命令書であると同時に、見本集でもある。

03

良い例を作る4つの条件

01

実際の業務に近い

架空すぎる例ではなく、会社で本当に起きる問い合わせ、商品、文書に近い例を使う。

02

ばらつきを含める

簡単な例だけでなく、少し曖昧な例、断れない例、確認が必要な例も入れる。

03

出力形式を揃える

箇条書き、表、メール文など、欲しい形を例の中で統一しておく。

04

禁止事項も例で見せる

勝手に値引きしない、納期を断定しないなど、避けたい判断を例の中で表現する。

Evidence Note

Anthropicの公式ガイドは、例を「関連性が高い」「多様性がある」「構造化されている」ものにすることを推奨している。これは中小企業の実務にもそのまま当てはまる。よくある例だけでなく、境界線上の例を入れるほど、AIの判断は現場に近づく。

04

例は3つから始める

最初から10個も20個も例を入れる必要はない。まずは3つで十分だ。1つ目は標準的な成功例、2つ目は少し迷う例、3つ目は断る・確認する例にすると、AIが仕事の幅を理解しやすい。

ただし、例が多ければ必ず良くなるわけではない。例が古い、矛盾している、長すぎる、実務からズレている場合、AIはその悪い癖も学んでしまう。Few-Shotは「AIに良い癖を覚えさせる方法」でもあり、「悪い癖を渡してしまう危険」もある。

プロンプトの上達とは、
うまい言い方を探すことではない。
AIに見せる良い見本を集めることだ。
月刊AI 編集部
05

中小企業での実践例

社内で使いやすいのは、問い合わせ返信、見積依頼の確認、議事録要約、日報の整理、クレーム初期対応の5つだ。どれも過去の良い文例が残っていることが多く、AIに見せる例を作りやすい。

たとえば議事録要約なら、良い議事録を3件選び、「決定事項」「未決事項」「次回までの宿題」という見出しで整えた例を作る。次に、新しい会議メモを入れて「上の例と同じ形式でまとめて」と頼む。これだけで、出力のばらつきはかなり減る。

重要なのは、社内の良い仕事をAIに見せることだ。AIは会社の文化を知らない。だから、過去の良いメール、良い提案書、良い議事録を教材として渡す。AI導入とは、社内の暗黙知を少しずつ見える形にする作業でもある。

06

最後は必ず人間が確認する

Few-Shot Promptingを使うと、AIの出力はそれらしく整う。だからこそ、油断しやすい。形式が整っていても、内容が正しいとは限らない。金額、納期、法的判断、顧客ごとの特別条件などは、必ず人間が確認する必要がある。

AI初心者の会社では、Few-Shotを「自動化の技術」としてではなく、「確認しやすい下書きを作る技術」として使うのが安全だ。出力を整え、担当者の修正時間を減らし、社内の型を揃える。そこまでできれば、Few-Shotは十分に実務価値を持つ。

Sources / 参考資料
  1. OpenAI「Prompt engineering / Few-shot learning」
  2. Anthropic「Use examples effectively」
  3. Prompt Engineering Guide「Few-Shot Prompting」
  4. Chip Huyen『AI Engineering』O'Reilly, Chapter 5 Prompt Engineering
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