AI関連書は、いま大きく二つに分かれている。一つは「どう使うか」を教える本、もう一つは「どう作るか」を教える本だ。しかし企業でAIを活用するには、その中間が必要になる。経営者は技術の限界を理解し、実務担当者は使い方を型にし、開発者は業務に耐える仕組みへ落とし込む。その橋渡しになる3冊を選んだ。
人間の判断を中心に読む
業務システムとして読む
実装の入口として読む
『Co-Intelligence: Living and Working with AI』
Ethan Mollick / Portfolio / 2024
AIを「便利な検索道具」としてではなく、「一緒に考える相手」として扱うための入門書である。著者のEthan Mollickは、AIを仕事や教育に取り入れる際の原則として、まずAIを積極的に試すこと、人間が責任を持つこと、AIの得意不得意を見極めることを繰り返し説く。
中小企業経営者にとって本書が有用なのは、技術の細部よりも、AIと働く姿勢を整理している点だ。AIは万能ではない。しかし、文章の下書き、案出し、反論の生成、視点の拡張には強い。経営者がAI導入で最初に知るべきなのは、ツール名ではなく「どの仕事で人間の思考を補助できるか」である。
注意点は、米国の教育・職場文脈が中心で、日本の中小企業の業務プロセスにそのまま当てはめるには翻訳が必要なことだ。それでも、AIを怖がりすぎず、過信しすぎず、日々の仕事に入れる感覚をつかむ一冊として優れている。
『AI Engineering: Building Applications with Foundation Models』
Chip Huyen / O'Reilly Media / 2025
AIを業務に組み込む段階で、最も頼りになるのが本書だ。プロンプト、検索拡張生成、評価、監視、データ、ユーザー体験まで、AIアプリケーションを作るために必要な要素が体系的に整理されている。
AI初心者には少し技術寄りに見えるかもしれない。しかし、経営者や業務責任者にも読む価値がある。なぜなら本書は、AI導入が「モデルを選ぶこと」だけでは完結しないと教えてくれるからだ。業務データをどう渡すか、出力をどう評価するか、誤りをどう検知するか。これらは開発者だけでなく、業務側が一緒に決めるべき問題である。
Vol.02で扱っているAIエージェント、業務フロー、評価の話を深めたい読者には、3冊の中で最も実務の骨格を与えてくれる。プログラムを書かない読者でも、目次を追うだけで「AI導入に必要な部品」が見えてくる。
『AI Agents in Action』
Micheal Lanham / Manning Publications / 2024-2025
AIエージェントを実装してみたい読者に向けた実践書である。エージェントがツールを使い、記憶を持ち、複数ステップの作業を進める仕組みを、開発者向けに説明している。LangChainや関連フレームワークの考え方に触れながら、AIを単なるチャット画面から業務システムへ進める入口になる。
非エンジニアが通読するには難しい箇所もある。ただし、経営者が本書を読む意味は、コードを理解することではない。AIエージェントが「魔法の自動化」ではなく、ツール、記憶、手順、権限、評価を組み合わせた仕組みだと理解することにある。
導入担当者が開発会社や社内エンジニアと話すとき、本書の視点は役に立つ。「AIに任せたい」と言うだけではなく、「どのツールを使わせるのか」「どこで人間承認を挟むのか」「失敗時にどう止めるのか」と質問できるようになるからだ。
3冊は役割が違う。『Co-Intelligence』はAIと働く姿勢を学ぶ本、『AI Engineering』はAIを業務アプリケーションにする設計書、『AI Agents in Action』はエージェント実装の入口である。順番に読むなら、この並びが最も自然だ。
どの読者に、どの本が向くか
AI初心者の経営者には、まず『Co-Intelligence』をすすめたい。AIの限界を理解しながら、日常業務で試す勇気を持てるからだ。社内でAI導入を任された実務担当者には『AI Engineering』が向く。少し難しいが、AI導入の全体像をつかめる。
一方、開発者や、外部ベンダーと具体的なシステム化を話す担当者には『AI Agents in Action』が合う。AIエージェントは、プロンプトだけで動くものではない。ツール連携、メモリ、評価、権限管理が必要になる。その現実を知るだけでも、発注や社内検討の解像度が上がる。
AI本は、最初から全部理解しようとしなくて大丈夫です。経営者は「何ができて、何が危ないか」、実務担当者は「どの業務に使えるか」、開発者は「どう作るか」を拾い読みすれば十分です。
AIを「作る」とは、モデルを作ることではない
「AIを作る」と聞くと、巨大なモデルを開発することを想像しがちだ。しかし中小企業にとっての「作る」は、既存のAIモデルを使って、自社業務に合う小さな仕組みを作ることだ。問い合わせの分類、見積書の下書き、社内資料検索、議事録要約、日報整理。こうした業務にAIを組み込むことが、現実的なAI開発である。
その意味で、今月の3冊は一つの階段になっている。AIとどう付き合うかを学び、AIシステムに必要な部品を知り、エージェントとして動かす方法を見る。AIを使うだけで終わらせないためには、この順番で視野を広げることが重要だ。
AIを「使う」会社は増えていく。月刊AI 書評委員会
差がつくのは、AIを自社の仕事に合わせて
組み立てられる会社だ。
- Ethan Mollick『Co-Intelligence: Living and Working with AI』Portfolio / Penguin Random House
- Chip Huyen『AI Engineering: Building Applications with Foundation Models』O'Reilly Media
- Micheal Lanham『AI Agents in Action』Manning Publications
- Chip Huyen「Agents」
- Anthropic Engineering「Building effective agents」