月刊AI
VOL.03
FEATURE / AI WITH PEOPLE

「AIと働く人」の
再設計

Vol.02では、AIエージェントが組織図・承認・部署の境界を変えることを見た。では、その組織で働く人は、何を評価され、どう育ち、どんなキャリアを描くのか。

WRITTEN BY EDITORIAL DESKREADING TIME 9 MINFOR AI BEGINNERS
AI時代の働き方を話し合う中小企業のチーム
AIを「人の代替」ではなく、仕事の設計を変える共同作業者として捉える
旧来の評価 AI時代の評価 作業量処理速度設計力判断力協働力 AI WORK PARTNER
作業をこなす力から、AIを使って仕事を設計する力へ
Previous Question Vol.02の問いは「組織が再設計されるなら、人はどうなるのか」だった。本稿はその答えとして、評価・育成・キャリアの物差しを整理する。

AIが仕事に入ってくると、人の価値が消えるのではない。変わるのは、人が評価される理由である。これまで「早く、たくさん、正確に」処理できる人が強かった仕事では、AIが下書きや整理を担い始める。すると人間に残る中心は、何をAIに任せるかを決める力、AIの出力を見極める力、周囲と役割を分ける力になる。

Beginner Point

AIエージェントとは、複数の作業をまとめて手伝うAIです。社員の代わりに責任を取る存在ではありません。AIが作った下書きや候補を、人間が確認し、判断し、必要に応じて直す。この役割分担が基本です。

00「AIに代替される」ではなく「AIと働く」

AIの話になると、最初に出てくるのは「自分の仕事はなくなるのか」という不安だ。だが現場で起きる変化は、職業が丸ごと消えるというより、職業の中にある作業が分解されることから始まる。

営業職がなくなるのではない。顧客メールの分類、提案書の下書き、会議メモの整理、見積条件の確認といった作業がAIに移る。経理職がなくなるのではない。請求書の読み取り、入力候補の作成、異常値の発見といった作業がAIに移る。

したがって経営者が考えるべき問いは、「誰がAIに置き換わるか」ではない。「AIが入った後、人間には何を期待するのか」である。

01評価の物差しが変わる

これまでの評価では、「何件処理したか」「何時間で終えたか」「どれだけミスが少なかったか」が見やすい指標だった。もちろん、これらは今後も重要である。しかしAIが下書きや分類を担うようになると、作業量そのものを人間の能力として評価しにくくなる。

たとえば、AIが作った提案書を10件提出した社員と、AIが誤った条件を入れていないか丁寧に確認し、重要顧客向けに2件だけ深く修正した社員がいたとする。単純な件数だけを見れば前者が上に見える。しかし会社にとって価値が高いのは、必ずしも件数の多い方ではない。

AI時代の評価では、成果物の量だけでなく、AIに渡す条件を設計できたか、出力の危うさを見抜けたか、例外を人間に戻せたかを見る必要がある。

02中間管理職はプレイヤーからレフェリーへ

中間管理職の役割も変わる。これまでは、自分も作業を抱えながら部下の進捗を見て、資料を直し、判断を下す「プレイングマネージャー」が多かった。AIが現場に入ると、管理職は作業の速さだけでなく、AIと人間の役割分担を設計する人になる。

誰がAIに指示を出すのか。どの情報を使わせるのか。どの金額を超えたら人間承認に戻すのか。AIの出力を誰が確認するのか。これは、選手として走る仕事ではなく、ルールを見て仕事を成立させるレフェリーの仕事に近い。

設計力AIへ渡す目的・条件・禁止事項を決める力。
判断力AIの出力をそのまま使わず、危うさを見抜く力。
協働力人とAIの役割を分け、チームの成果に変える力。

03若手の「最初の3年」が消える問題

AI導入で見落とされがちなのが、若手社員の学習機会である。これまで若手は、議事録、資料整理、メール下書き、見積補助、データ入力など、一見すると雑用に見える仕事を通じて、顧客の癖、社内の判断基準、上司の考え方を覚えてきた。

もしその雑用をすべてAIに任せると、若手は失敗しながら仕事を覚える機会を失う。これは効率化の副作用である。だから中小企業は、AIに任せる作業と、若手に経験させる作業を分けて設計する必要がある。

04中小企業の人事制度は何を書き換えるべきか

最初に書き換えるべきなのは、評価項目である。「早く処理した」「たくさん処理した」だけでなく、「AIを使って仕事の流れを改善した」「AIの誤りを発見した」「他の社員が使える型にした」といった行動を評価に入れる。

次に、育成項目である。AI研修を一度受けさせて終わりではなく、日常業務の中でAIを使い、失敗を共有し、改善する時間を作る。最後に、管理職の役割定義である。管理職は部下を監視する人ではなく、AIと人間の仕事の境界線を調整する人になる。

AI時代の人材評価は、人がどれだけ作業したかではなく、人がどれだけ仕事を設計できたかを見る。

05AIネイティブ世代をどう迎えるか

これから入社する若手の中には、学生時代から生成AIを使って文章を書き、調べ物をし、資料を作ってきた人が増える。彼らにとってAIは特別な道具ではなく、電卓や検索エンジンに近い存在になる。

その世代を迎える中小企業が避けるべきなのは、「うちはAI禁止」とすることでも、「若い人に全部任せる」ことでもない。必要なのは、会社としての使い方、確認方法、責任範囲を決めたうえで、若い世代の自然な使い方を組織の学びに変えることだ。

06次号への問い

人材制度を書き換えるのは、社員ではない。最終的には経営者である。評価を変えるか。育成時間を確保するか。AIを使った失敗を責めるのか、それとも改善の材料にするのか。これらを決めるのは経営者自身だ。

では、その経営者自身は何を学び直し、何を手放し、何を決め直すべきなのか。Vol.04では、経営者自身の再設計を扱う。

Sources / 参考資料
  1. Microsoft, 2025 Work Trend Index Annual Report
  2. World Economic Forum, The Future of Jobs Report 2025
  3. IPA, DX動向2025
  4. 経済産業省, 2025年版中小企業白書・小規模企業白書
  5. NIST, AI Risk Management Framework
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