プロンプトの作法 第6回 — オーディエンス設計。前回は「文脈を渡す」を扱った。今回は渡した文脈を、誰に向けて形にするかを指定する
AIの出力が「間違ってはいないが、そのままでは使えない」と感じるとき、原因の多くは読み手の指定漏れにある。人間は相手を見て言葉を選ぶが、AIは指定がなければ「誰にでも通じそうな、誰にも刺さらない文章」を書く。読み手を一行足すだけで、出力の質は段違いに変わる。
読み手を指定すると、AIは同時に三つのことを決められるようになる。語彙の水準(専門用語をどこまで使うか)、前提の量(何を説明済みとして省くか)、結論の位置(先に言うか、順を追うか)だ。この三つが決まらないまま書かれた文章は、専門用語が中途半端に混じり、説明が過不足になり、要点がどこにあるか分からなくなる。
「給湯器の交換工事について、お客様への案内文を書いてください」
→ 誰にでも当てはまる、丁寧だが特徴のない文面が返る。専門用語の水準が定まらず、結局は全面的に書き直すことになる。
「読み手は60代のご夫婦で、設備の知識はありません。3日前に『お湯が出ない』と電話をくださった方です。不安を減らすことを最優先に、案内文を書いてください」
→ 語彙・前提・順序が定まり、そのまま確認すれば送れる水準の下書きになる。
実務では、次の三つを書けば十分だ。属性を細かく書き込むほどよいわけではなく、出力の選択に影響する情報だけを選ぶのがコツである。
逆に、指定しないほうがよいものもある。年齢や性別を、必要がないのに書き添えないことだ。総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」は、AIの出力が公平性を欠かないよう潜在的なバイアスに留意することを求めている。読み手の属性指定は出力の質を上げる有効な技法だが、出力の選択に関係のない属性を書き込むと、不要な前提を持ち込むことになる。判断基準は一つ——その属性を消したら出力が変わらないなら、書かない。
今号の実践記事で扱った「初回返答の作り替え」に対応する形で、顧客接点で使える3種のテンプレートを示す。いずれも角括弧の部分を自社の内容に置き換えて使う。
このテンプレートの要は、最後の三つの厳守事項だ。特に「[要確認]と明示して空欄にする」という指示が効く。AIに埋めさせないことで、確認すべき箇所が一目で分かり、送信前チェックが30秒で終わる。
書き分けの練習として、また実務上の時短として両方に効く。最後の「何を変えたかを説明させる」指示を入れておくと、自社にとっての書き分けの基準が言語化され、次回以降のテンプレート改善に使える。
これは推敲ではなく受信テストだ。「改善案を書かない」と指示するのが要点で、AIに添削させると一般的な文章改善のアドバイスが返ってくるだけになる。読み手の反応だけを出力させると、自分では気づけない引っかかりが具体的に出てくる。特に4番目の「何を質問するか」は有効で、ここに挙がった質問を先回りして本文に入れておけば、往復が一回減る。
読み手の指定は、プロンプトの中で最も費用対効果の高い一行だ。三つの要素——誰か、どんな状態か、読んだ後どうなってほしいか——を書き添えるだけで、出力は「そのままでは使えないもの」から「確認すれば送れるもの」に変わる。そして届け方の再設計とは、突き詰めれば受け取る側から設計をやり直すことにほかならない。プロンプトの一行も、同じ原理で動いている。
次回(第7回)は、AIの出力を検証する方法——「根拠を出させる作法」を扱う予定である。