MONTHLY_AI / SYS_OK / 2026.09
月刊AI
COLUMN / 連載 — VOL.06

読み手を指定する

プロンプトの作法 第6回 — オーディエンス設計。前回は「文脈を渡す」を扱った。今回は渡した文脈を、誰に向けて形にするかを指定する

月刊AI 編集部 2026年9月号 連載 第6回 SERIAL / COLUMN
机上のノートとディスプレイ
読み手を決めてから書き始める(2026年7月)
06
Serial / プロンプトの作法 第6回
読み手を指定する — オーディエンス設計
今号との接続 今号のテーマは「届け方の再設計」だ。届け先が変われば、同じ内容でも書き方は変わる。第5回で扱った「文脈を渡す」が入力側の設計だとすれば、今回の「読み手を指定する」は出力側の設計にあたる。

AIの出力が「間違ってはいないが、そのままでは使えない」と感じるとき、原因の多くは読み手の指定漏れにある。人間は相手を見て言葉を選ぶが、AIは指定がなければ「誰にでも通じそうな、誰にも刺さらない文章」を書く。読み手を一行足すだけで、出力の質は段違いに変わる。

01なぜ読み手の指定が効くのか

読み手を指定すると、AIは同時に三つのことを決められるようになる。語彙の水準(専門用語をどこまで使うか)、前提の量(何を説明済みとして省くか)、結論の位置(先に言うか、順を追うか)だ。この三つが決まらないまま書かれた文章は、専門用語が中途半端に混じり、説明が過不足になり、要点がどこにあるか分からなくなる。

Before / 読み手の指定なし

「給湯器の交換工事について、お客様への案内文を書いてください」

→ 誰にでも当てはまる、丁寧だが特徴のない文面が返る。専門用語の水準が定まらず、結局は全面的に書き直すことになる。

After / 読み手を指定

「読み手は60代のご夫婦で、設備の知識はありません。3日前に『お湯が出ない』と電話をくださった方です。不安を減らすことを最優先に、案内文を書いてください」

→ 語彙・前提・順序が定まり、そのまま確認すれば送れる水準の下書きになる。

02読み手を指定する3つの要素

実務では、次の三つを書けば十分だ。属性を細かく書き込むほどよいわけではなく、出力の選択に影響する情報だけを選ぶのがコツである。

① 誰か(知識水準) 職種・立場・その分野の知識量。「経理担当だが会計システムには詳しくない」のような一文でよい。
② 今どんな状態か 急いでいる/不安がある/比較検討中/怒っている。感情の状態は文の順序を決める。
③ 読んだ後どうなってほしいか 安心してほしい/すぐ返信してほしい/社内で共有してほしい。目的が結論の位置を決める。

逆に、指定しないほうがよいものもある。年齢や性別を、必要がないのに書き添えないことだ。総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」は、AIの出力が公平性を欠かないよう潜在的なバイアスに留意することを求めている。読み手の属性指定は出力の質を上げる有効な技法だが、出力の選択に関係のない属性を書き込むと、不要な前提を持ち込むことになる。判断基準は一つ——その属性を消したら出力が変わらないなら、書かない

03使えるテンプレート3種

今号の実践記事で扱った「初回返答の作り替え」に対応する形で、顧客接点で使える3種のテンプレートを示す。いずれも角括弧の部分を自社の内容に置き換えて使う。

Template 01 — 初回返答の下書き
あなたは[業種]の会社で、お客様対応を担当しています。 【読み手】 ・[顧客の立場・知識水準を1〜2行で] ・現在の状態:[急いでいる/不安がある/比較検討中 など] ・この返信を読んだ後:[どうなってほしいか] 【問い合わせ内容】 [顧客からの問い合わせ本文を貼る。氏名・住所・電話番号は伏せる] 【この会社の返信の型】 [過去の良い返信を3〜5通貼る] 【厳守事項】 ・金額、納期、可否の断言は書かないでください。 該当箇所は「[要確認]」と明示して空欄にしてください。 ・確認が取れていない事実は書かないでください。 ・分からない点があれば、推測せず「確認が必要な項目」として 末尾に箇条書きで挙げてください。 上記を踏まえ、初回返答の下書きを作成してください。

このテンプレートの要は、最後の三つの厳守事項だ。特に「[要確認]と明示して空欄にする」という指示が効く。AIに埋めさせないことで、確認すべき箇所が一目で分かり、送信前チェックが30秒で終わる。

Template 02 — 同じ内容を、3人の読み手に書き分ける
以下の内容を、3種類の読み手それぞれに向けて書き分けてください。 【伝えたい内容】 [伝える事実を箇条書きで] 【読み手A:既存のお客様(技術的な知識なし)】 不安を減らすことを最優先。専門用語は使わない。 結論を先に書き、理由は後に短く。 【読み手B:取引先の担当者(同業・実務レベル)】 正確さを最優先。工程・条件・例外を明示する。 社内で転送されることを前提に、要点を冒頭3行に。 【読み手C:自社の現場スタッフ】 行動に移せることを最優先。 「誰が・いつまでに・何をするか」を明示する。 3つとも作成し、それぞれ何を変えたかを最後に一行で説明してください。

書き分けの練習として、また実務上の時短として両方に効く。最後の「何を変えたかを説明させる」指示を入れておくと、自社にとっての書き分けの基準が言語化され、次回以降のテンプレート改善に使える。

Template 03 — 送る前に、読み手の目で読み直す
あなたは以下の文章を受け取る立場の読み手です。 【あなた(読み手)の設定】 ・[立場・知識水準] ・[現在の状態・気にしていること] 【受け取った文章】 [送信予定の文面を貼る] この文章を読んだ読み手として、次の4点に答えてください。 1. 読み終えた時点で、何をすればいいと理解しましたか 2. 分からなかった箇所、引っかかった箇所はどこですか 3. 不安になった、あるいは不信を感じた表現はありますか 4. この文章に返信するとしたら、何を質問しますか 評価や改善案は書かず、読み手として感じたことだけを書いてください。

これは推敲ではなく受信テストだ。「改善案を書かない」と指示するのが要点で、AIに添削させると一般的な文章改善のアドバイスが返ってくるだけになる。読み手の反応だけを出力させると、自分では気づけない引っかかりが具体的に出てくる。特に4番目の「何を質問するか」は有効で、ここに挙がった質問を先回りして本文に入れておけば、往復が一回減る。

04今回のまとめ

読み手の指定は、プロンプトの中で最も費用対効果の高い一行だ。三つの要素——誰か、どんな状態か、読んだ後どうなってほしいか——を書き添えるだけで、出力は「そのままでは使えないもの」から「確認すれば送れるもの」に変わる。そして届け方の再設計とは、突き詰めれば受け取る側から設計をやり直すことにほかならない。プロンプトの一行も、同じ原理で動いている。

次回(第7回)は、AIの出力を検証する方法——「根拠を出させる作法」を扱う予定である。

SOURCES / 出典
  1. 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」2025年3月28日。https://www.soumu.go.jp/main_content/001002576.pdf
  2. 総務省「令和7年版 情報通信白書」2025年7月(企業におけるAI利用の現状)。https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112220.html
  3. 中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書」2026年4月。https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/index.html
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