●  MONTHLY_AI / SYS_OK / 2026.10
月刊AI
COLUMN / 連載 — VOL.07

根拠を出させる

プロンプトの作法 第7回 — 検証の設計。前回は「読み手を指定する」を扱った。今回は、AIが書いたことを信じてよいかどうかを、自分で確かめられる形で出させる

月刊AI 編集部 2026年10月号 連載 第7回 SERIAL / COLUMN
付箋と下線の入った資料と虫眼鏡
書かれたことを、元の資料に当たって確かめる(2026年8月)
EVIDENCE SORTING — WHAT TO CHECK BEFORE SENDING AI DRAFT AIの下書き もっともらしい文が 同じ口調で並ぶ 【記録】 資料に明記 【一般】 出典を確かめる 【推測】 言い方を弱める 【要確認】 人が確定する HUMAN CHECK 確認リスト 全文ではなく 数行を確かめる
図5 — AIの下書きを4種類に仕分け、人が確かめる箇所を絞る(月刊AI 編集部作成)
07
Serial / プロンプトの作法 第7回
根拠を出させる — 検証の設計
今号との接続 今号のテーマは「関係の再設計」だ。関係は、相手に伝えたことが正しいという積み重ねでできている。AIが下書きした点検案内や提案に一つでも誤りがあれば、続いてきた信頼が揺らぐ。第6回の「読み手を指定する」が出力の形の設計だとすれば、今回の「根拠を出させる」は出力の中身を確かめるための設計である。

生成AIは、もっともらしい文章を書くのが得意だ。そして、もっともらしいことと正しいことは違う。AIは手元にない事実を、それらしく補ってしまうことがある。だから使う側に必要なのは、AIを疑う態度ではなく、AIに「どこから言っているのか」を毎回示させる習慣である。根拠が示されていれば、人は短時間で確かめられる。

01「根拠」と「出典」と「推測」を分けさせる

AIの出力の一文一文は、性質の違う三種類に分けられる。渡した資料に書いてあること(根拠あり)、AIが一般的な知識として述べていること(出典の確認が必要)、AIが資料から推し量ったこと(推測)。困るのは、この三つが同じ口調で混ざって出てくることだ。分けて書けと指示するだけで、確認すべき箇所が目に見えるようになる。

Before — 指示なし

「お客様の冷蔵庫は使用開始から8年が経過しており、コンプレッサーの寿命が近づいています。交換をお勧めします。」——どこまでが記録で、どこからが推測か分からない。

After — 根拠を分けさせる

「【記録】2018年納入、2025年8月にコンプレッサー修理。【記録】前回点検メモに霜取り不良の記述あり。【推測】同種の不具合が再発する可能性がある。【要確認】交換の要否は技術者の点検による。」

02根拠を出させる3つの原則

第一に、答える範囲を資料に限定する。「以下の資料だけをもとに」と書き、資料にないことは「資料に記載なし」と答えさせる。第二に、根拠の場所を指させる。どの資料の、どの部分に書いてあるかを示させれば、人は元の文書に戻って一分で確認できる。第三に、確信の度合いを言わせる。言い切れること、推測であること、分からないことを区別させる。

そしてもう一つ、使う側の原則がある。AIの出力そのものを出典として扱わない。AIが「〇〇白書によれば」と書いても、それは白書の原文を確かめるきっかけにすぎない。数字や制度を顧客や社内に伝えるときは、必ず元の資料に当たる。本誌がすべての記事で一次資料の出典を明記しているのも、同じ理由からだ。

03使えるテンプレート3種

Template 01 — 資料の範囲だけで答えさせる
以下の[資料]だけをもとに、[質問]に答えてください。 ルール: ・資料に書かれていないことは推測で補わず、「資料に記載なし」と書いてください。 ・回答の各文の末尾に、根拠とした資料の箇所を(資料名・該当部分の書き出し)の形で示してください。 ・一般的な知識で補った部分があれば、【一般知識】と明記してください。 [質問] (例:この顧客に次回の点検を案内する際、伝えるべき注意点は何か) [資料] (例:納入記録、過去の修理記録、作業メモ — 氏名・連絡先は記号に置き換えたもの)

顧客への案内や提案の下書きでは、まずこれを使う。「資料に記載なし」が出てきた箇所こそ、担当者が自分の知識で補うべき場所だ。AIに埋めさせてはいけない。

Template 02 — 記録・推測・要確認を色分けさせる
以下の文章は、あなたが先ほど作成した下書きです。 一文ずつ、次の4つのどれに当たるかを判定し、文頭に記号を付けて書き直してください。 【記録】渡した資料に明記されている事実 【一般】資料にはないが、一般的に知られているとあなたが判断したこと 【推測】資料から推し量ったこと 【要確認】人が確認しなければ顧客に伝えてはいけないこと(金額・納期・可否・安全に関わること) 最後に、【一般】【推測】【要確認】の文だけを一覧にして、 それぞれ「何を見れば確認できるか」を1行で添えてください。 [下書き] (ここに下書きを貼る)

自分が書かせた下書きを、AI自身に仕分けさせる使い方だ。最後の一覧が、そのまま人間の確認リストになる。送信前のチェックが「全文を読み直す」から「数行を確かめる」に変わる。

Template 03 — 反対の根拠を探させる
次の[主張]について、反対の立場から検証してください。 1. この主張が誤っている可能性を示す根拠を、[資料]の中から探してください。 2. 資料の中に見つからない場合は「資料内に反証なし」と書いてください。 3. 主張を顧客に伝える前に、人が確認すべき点を3つ挙げてください。 4. 確認の結果、主張を弱めるべき場合の言い換え案を1つ示してください。 [主張] (例:この顧客は保守契約をスタンダードに上げたほうがよい) [資料] (例:過去2年の修理記録と点検メモ)

AIは、頼まれた方向の根拠を集めるのが得意だ。だから提案の前には、あえて反対側を探させる。反証が見つからなければ自信を持って提案でき、見つかれば言い方を弱められる。どちらに転んでも、顧客との関係は守られる。

04今回のまとめ

根拠を出させる作法は、AIを疑うための技術ではない。人が短い時間で責任を持てるようにするための技術である。資料の範囲に限らせる、根拠の場所を指させる、確信の度合いを言わせる、反対の根拠を探させる。どれも一行の指示で済む。そして最後に確かめるのは、いつも人間だ。

次回(第8回)は、AIとのやり取りで得た知見を次に引き継ぐ方法——「記憶させる作法」を扱う予定である。

SOURCES / 出典
  1. 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」2025年3月28日。https://www.soumu.go.jp/main_content/001002576.pdf
  2. NIST "Artificial Intelligence Risk Management Framework (AI RMF 1.0)" National Institute of Standards and Technology, 2023. https://www.nist.gov/system/files/documents/2023/01/26/NIST.AI.100-1.pdf
  3. 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」2023年6月2日。https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_kouhou_houdou.pdf
  4. ※テンプレート中の例示(顧客・機器・記録)は、本誌が設定した事例です。
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