AI導入後の人事評価で最初に起きる混乱は、「成果物は増えたが、誰の力なのか分からない」という問題である。AIがメール文、提案書、分析表、議事録を作ると、完成物だけを見ても人間の貢献が見えにくくなる。
01旧来のKPIが機能しにくくなる理由
従来のKPIは、処理件数、売上、作業時間、ミス率のように、結果として数えやすいものを中心に置いてきた。これは人間が作業の大部分を担っていた時代には合理的だった。
しかしAIが下書きや分類を担うと、処理件数はAIの力で増える。作業時間は短くなる。ミス率もAIと人間の確認の組み合わせで決まる。つまり、数字の変化がそのまま社員の能力を示すとは限らない。
02AIがやる仕事を評価しても意味がない
AI時代に評価すべきなのは、AIが作った量ではない。人間がAIをどう使ったかである。良い社員は、曖昧な依頼をそのままAIに投げない。目的、条件、対象読者、禁止事項、確認すべき数字を整理してから渡す。
また、AIの出力が自然な文章であっても、内容が正しいとは限らない。数字、契約条件、顧客事情、法的判断、社内ルールに関わる部分を確認し、必要なら人間に戻す。この判断が、これからの評価対象になる。
033つの新指標
この3つは、専門的なAI知識がなくても評価できる。たとえば「良いプロンプトを作ったか」ではなく、「その指示によって見積確認の手戻りが減ったか」を見る。「AIに詳しいか」ではなく、「他の社員も使える手順にしたか」を見る。
04行動評価に落とす
評価表には、抽象語のまま入れないほうがよい。「設計力がある」ではなく、「業務目的、入力情報、禁止事項、確認者を明記してAIに依頼している」と書く。「判断力がある」ではなく、「AI出力の数字・固有名詞・契約条件を送信前に確認している」と書く。
中小企業では、最初から大きな人事制度改定をする必要はない。半期評価の行動項目に3行追加するだけでもよい。重要なのは、AI利用を個人の裏技ではなく、会社が期待する行動として表に出すことだ。
05OKRと360度評価の使い方
OKRを使う会社なら、「問い合わせ対応のAI下書き運用を3部署で定着させる」のような目標にできる。成果指標は、処理件数だけでなく、手戻り率、確認時間、テンプレート共有数、例外処理の記録数にする。
360度評価を使う場合は、AIの出力を独占していないか、周囲が使える形にしているかを見る。AIを使って一人だけ早くなる社員より、チーム全体の仕事を少し軽くする社員を評価する視点が必要だ。
06経営者自身の物差しも問われる
評価制度は、会社が何を大切にするかの宣言である。AI時代に作業量だけを評価し続ければ、社員はAIで量を増やすことに向かう。設計力と判断力を評価すれば、社員はAIを安全に使う方法を考える。
最後に問われるのは、経営者が何を成果と呼ぶかである。Vol.04では、この「経営者自身の物差し」をどう変えるかが中心テーマになる。
