月刊AI
VOL.04
COLUMN / SERIAL — 第4回

プロンプトの作法
第4回

問いを分解し、段階で考えさせる — 複雑な経営判断を、AIに一度に解かせようとしてはいけない。目的・前提・選択肢・リスク・判断点に分けて、段階的に出させる技法を示す。

EDITORIAL DESK READING TIME 6 MIN SERIAL
経営課題を6枚のカードへ分解している机上
問いを分解すると、どこで判断が止まっているかが可視化される
連載の流れ 第1回「指示と委任」→ 第2回「具体例の力」→ 第3回「制約条件の設計」→ 第4回「複雑な問いの分解と段階実行」。前回は社員向けの制約条件を学んだ。今回は経営者が複雑な判断課題をAIで整理する技法に発展させる。

経営者がAIに「設備投資すべきか教えてほしい」と一文で聞いても、得られる答えは表面的なものになる。問いを分解し、段階的に出力させることで、思考の盲点を可視化できる。

なぜ「一問一答」では足りないのか

複雑な経営課題は複数の要素が絡み合っている。設備投資なら、資金調達・需要予測・競合動向・社内技術力・法令変化がすべて関係する。AIに「投資すべきか」と問うと、AIは前提が分からないまま「一般的な視点から言えば」という答えを返す。この答えは正確かもしれないが、あなたの会社の現状に合っているとは限らない。

解決策は、問いを分解することだ。AIに一気に結論を求めるのではなく、「まず目的を整理させる」「次に現在の事実を確認させる」「それから選択肢を出させる」と段階を分ける。これが「分解プロンプト」の考え方だ。

重要な注意

この技法は「AIに内部の隠れた思考プロセスをすべて見せてほしい」とするものではありません。目的は、確認できる中間成果物(目的・前提・選択肢・リスク・判断点)を段階的に出させることです。読者が確認し、訂正できる形で出力させることが重要です。

基本形 — 6段階の分解プロンプト

以下が、経営判断に使う分解プロンプトの基本テンプレートだ。

基本テンプレート
次の経営課題について、すぐに結論を出さず、以下の順番で整理してください。

経営課題:[ここに課題を一文で書く]

1. 目的
この判断で達成したいことは何か。

2. 現在わかっている事実
判断に使える確認済みのデータや情報は何か。

3. 不足している情報
判断前に確認が必要だが、まだ手元にない情報は何か。

4. 選択肢を3つ
この課題に対して考えられる選択肢を3つ挙げる。

5. 各選択肢の利点とリスク
それぞれの選択肢の良い点と、失敗しやすい条件を示す。

6. 人間が最終判断すべき点
この課題において、AIが判断できず、人間が責任を持って決めるべきことは何か。

実例 1設備投資の分解

三峰精工(Vol.04現場ルポ参照)のNC旋盤追加購入を例に、実際の入力例を示す。

実例入力
次の経営課題について、すぐに結論を出さず、以下の順番で整理してください。

経営課題:金属加工会社(従業員42名)として、NC旋盤を1台追加購入する(設備費約2,800万円)かどうかを判断したい。

1. 目的
2. 現在わかっている事実(★渡せる範囲の数字のみ)
3. 不足している情報
4. 選択肢を3つ
5. 各選択肢の利点とリスク
6. 人間が最終判断すべき点

このように入力すると、AIは「なぜ設備を増やしたいのか(需要増対応か、老朽更新か、新製品対応か)」「現在の稼働率と資金調達余力はあるか」「補助金や融資条件は確認済みか」といった整理を段階的に出す。経営者はこの整理を見て「自分が前提を確認していなかった点」を発見できる。

実例 2採用計画の分解

実例入力
次の経営課題について、すぐに結論を出さず、以下の順番で整理してください。

経営課題:来期(2027年4月)に営業スタッフを1名追加採用するかどうかを決めたい。現在の営業は3名。

1. 目的
2. 現在わかっている事実
3. 不足している情報
4. 選択肢を3つ(採用以外の選択肢を1つ以上含めること)
5. 各選択肢の利点とリスク
6. 人間が最終判断すべき点

「採用以外の選択肢を1つ以上含めること」という制約(第3回で学んだ技法)を追加することで、「既存社員の配置転換」「業務委託の拡大」「AI補助による生産性向上」といった別の選択肢も出やすくなる。経営者が採用以外の道を検討しなかったことへの問いかけになる。

実例 3新商品・新サービス案の分解

実例入力
次の経営課題について、すぐに結論を出さず、以下の順番で整理してください。

経営課題:現在の金属加工受注に加えて、設計補助サービス(顧客の図面確認・修正提案)を新たに提供するかどうかを判断したい。

1. 目的
2. 現在わかっている事実
3. 不足している情報(顧客ニーズの確認方法を含む)
4. 選択肢を3つ(フルサービス・限定試行・見送りを含む)
5. 各選択肢の利点とリスク
6. 人間が最終判断すべき点(顧客への説明責任含む)

「フルサービス・限定試行・見送りを含む」という指定を加えることで、AIが多角的な選択肢を出しやすくなる。また「顧客への説明責任含む」と加えることで、新サービスのリスクとして「既存顧客との関係変化」を必ず検討させる。

一歩進んだ使い方反対意見の専門的追求

基本形に慣れてきたら、Step 5を深掘りする追加プロンプトを試してほしい。

反対意見の追求
上記のStep 4で出した選択肢Aについて、
以下の視点から失敗する条件をさらに3つ追加してください。

- 半年後に前提が変わった場合
- 社員が抵抗した場合
- 顧客から否定的な反応が来た場合

このように「前提が変わったら」「社員が抵抗したら」「顧客が否定的だったら」という条件付きで失敗ケースを出させると、修正できる意思決定の設計(Vol.04特集参照)に役立つ。

Sources / 参考資料
  1. 連載第1回「プロンプトの作法 — 指示と委任」月刊AI Vol.01(2026年4月)
  2. 連載第2回「プロンプトの作法 — 具体例の力」月刊AI Vol.02(2026年5月)
  3. 連載第3回「プロンプトの作法 — 制約条件の設計」月刊AI Vol.03(2026年6月)
  4. NIST「AI RMF Generative AI Profile」— 構造化リスク確認の考え方を参照
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