東京商工リサーチの2025年調査では、生成AI活用を推進している企業は全体で25.2%、中小企業では23.4%にとどまる。一方、推進理由の最多は「業務効率の向上」93.9%だった。期待は高いが、中小企業ではまだ導入途上にある。
00まず、AIエージェントとは何か
たとえば「昨日の問い合わせを整理して、見積もりが必要な案件だけ担当者に回して」と頼むと、問い合わせ内容を読み、分類し、必要な情報を抜き出し、次に誰が確認すべきかまで提案する。これがAIエージェントの入り口だ。
ただし、ここで大事なのは、AIが勝手に会社を動かすわけではないということだ。どこまで任せるか、どこで人間が確認するか、誰が責任を持つかを決めて初めて、AIエージェントは業務で使える。
01AIは「部署」に所属しない
企業の組織図は、人間を前提に作られている。営業部、経理部、人事部、情報システム部。人はどこかの部署に所属し、上司がいて、担当範囲があり、承認ルートがある。
しかしAIエージェントは、この前提にうまく収まらない。営業部の依頼で提案書を作ったかと思えば、経理データを参照し、契約条件の注意点を拾い、顧客対応メールの下書きまで作る。AIは部署をまたいで動く。
たとえば、ある顧客から「この商品を50個、来月までに納品できますか」と問い合わせが来る。その内容を読み、過去の取引履歴を確認し、在庫や納期の情報を整理し、見積条件をまとめ、回答案を作り、必要なら上長確認に回す。この一連の流れは、営業、事務、経理、管理職をまたぐ。
AIエージェントを「新しい社員」と考えると分かりやすい。ただし、人間の社員と違って部署に閉じない。だから、最初に決めるべきなのは「どのソフトを買うか」ではなく、「どの仕事の流れに入れるか」である。
02承認フローが、最初のボトルネックになる
AIエージェント導入で最初に詰まるのは、技術ではなく承認である。AIが提案書を下書きするだけなら、大きな問題は起きにくい。人間が内容を確認し、必要な修正を加え、送信すればよい。
しかし、AIが顧客にメールを送る、発注データを入力する、請求書を処理する、広告予算を変更する、といった段階に進むと事情は変わる。そこには必ず「誰が許可したのか」という問いが生まれる。
AIによって作業が速くなるほど、人間の承認待ちが目立つようになる。だからAIエージェント時代の承認設計とは、「人間が全部確認する仕組み」ではない。「人間が介入すべき場面を定義する仕組み」である。
AIに任せることと、MONTHLY AI EDITORIAL DESK
人間が責任を手放すことは違う。
03中間管理職の仕事は「管理」から「設計」へ移る
AIエージェントが現場に入ると、中間管理職の仕事も変わる。これまで管理職は、部下の進捗を確認し、資料を直し、判断を下し、必要に応じて他部署と調整してきた。
しかしAIが作業の多くを担うようになると、重要になるのは、AIが動く環境そのものを設計することだ。どの業務をAIに任せるか。どの情報をAIに見せるか。どの金額や条件を超えたら人間に上げるか。失敗したときの責任者は誰か。
中小企業では、ここでいう「管理職」は必ずしも部長や課長とは限らない。社長自身、番頭役の社員、経理担当者、営業リーダーがこの役割を担うことも多い。
東京商工リサーチ 2025
McKinsey 2025
04仕事は「職種」ではなく「仕事の流れ」に分解される
AI導入の議論では、「どの職業がなくなるか」という問いがよく語られる。だが実際の現場で起きる変化は、職業単位ではなく、作業単位で進む。
営業職がなくなるのではない。営業の中にある、資料作成、顧客情報整理、議事録作成、見積条件確認、メール下書きといった作業がAIに移る。経理職がなくなるのではない。請求書の読み取り、仕訳候補の作成、異常値の検出、支払い予定の整理がAIに移る。
従業員20名の卸売会社で考えてみる。AIに任せやすいのは、問い合わせの分類、過去メールの要約、見積書の下書き、返信文のたたき台である。一方、価格交渉、重要顧客への最終回答、例外的な値引き判断は人間が見る。
05組織を解体するのではなく、再設計する
「AIエージェントが企業組織を解体する」と聞くと、人間の仕事が奪われ、部署が消え、会社が冷たい自動処理の塊になるように感じるかもしれない。しかし、本当に起きるべき変化は、破壊ではなく再設計である。
部署ではなく、目的から仕事を組み直す。人間だけでなく、AIも含めてチームを設計する。すべてを承認するのではなく、例外を見つける。作業量ではなく、成果と改善を評価する。
AIエージェントが解体するのは、会社そのものではない。人間の作業速度を前提にした、古い業務設計である。そして、そのあとに必要なのは、新しい組織図ではない。新しい働き方の設計図だ。
東京商工リサーチ「2025年 生成AIに関するアンケート調査」、IPA「DX動向2025」、中小企業庁「2025年版 中小企業白書」、McKinsey「The State of AI in 2025」、Microsoft「2025 Work Trend Index」、NIST「AI Risk Management Framework」。
「8割で動かす」会社のつくり方